「免許を返してから、買い物と病院の足をどうしよう」。そんな話をきっかけに、セニアカー(電動シニアカー)を考え始めるご家庭が増えています。歩道をゆっくり走れて、免許も車検もいらない。ただ、いざ買うとなると「転んだりしないだろうか」「もし人にぶつかったら」と、便利さより不安のほうが先に立つのではないでしょうか。
当店はセニアカーの買取を専門にしているので、乗り始めるときのご相談だけでなく「そろそろ乗るのをやめようと思って」というお電話もよくいただきます。その両方の場面で必ず出てくる6つの疑問を、ここで一度まとめておきます。
セニアカーの事故は、実際どれくらい起きているのか
まず前提から。セニアカーは道路交通法上、クルマやバイクではなく「歩行者」として扱われます。ナンバーもなければ免許も要りません。裏を返すと、自動車のように「登録台数◯台に対して事故◯件」という形の事故率は、どこにも集計されていないのが実情です。
手がかりになるのが、製品評価技術基盤機構(NITE)に寄せられた事故情報です。2013年から2023年7月末までに報告された、高齢者が被害者となった電動車いすの事故は52件。件数だけ見れば多くありませんが、内訳を見ると印象が変わります。
| 集計期間 | 2013年〜2023年7月末 |
|---|---|
| 事故件数 | 52件 |
| うち死亡事故 | 26件 |
| うち重傷事故 | 16件 |
| 死亡・重傷の割合 | およそ8割 |
出典:製品評価技術基盤機構(NITE)「見守って防ごう!高齢者の事故」より
52件のうち26件が死亡事故です。めったに起きないけれど、起きたときは重くなりやすい。これがセニアカーの事故のいちばんの特徴だと思ってください。
理由ははっきりしていて、ヘルメットもシートベルトもないからです。時速6kmは早歩き程度の速さですが、その姿勢のまま横倒しになれば頭を打ちます。しかも乗っているのは骨折しやすい年代の方です。
そしてもうひとつ。事故の多くは「誰かとぶつかった」ものではありません。目立つのは相手のいない単独事故のほうです。
実際に多い事故のパターン
- 踏切の溝にタイヤを取られ、渡りきれずに立ち往生する
- 道路脇の側溝や用水路に脱輪して転落する
- 坂道でバランスを崩し、そのまま転倒する
- 段差を斜めに乗り上げようとして横転する
相手がいないぶん、誰にも気づかれないまま時間が経ってしまうこともあります。「どこを走るか」が安全を大きく左右するのは、このためです。
どんな方が乗っているのか
利用者の中心は70代後半から80代です。90代で現役という方も珍しくありません。買取のご依頼をいただくときも、8年、10年と乗り続けた車両が出てくることがよくあります。
乗り始めるきっかけは、だいたい次の3つに分かれます。
| きっかけ | よくある場面 |
|---|---|
| 運転免許の返納 | 車を手放したあとの買い物・通院・友人宅への移動手段として。返納と同時に検討される方がいちばん多い |
| 足腰の衰え | 膝や腰が痛み、歩いて往復できる距離が短くなった。荷物を持って帰れなくなった |
| 自転車からの乗り換え | 立ちごけや転倒が増えて、ご家族から「自転車はもうやめて」と言われた |
「まだ歩けるから要らない」とおっしゃる方も多いのですが、操作を覚えるという点では、体が動くうちに始めたほうが確実です。歩けなくなってから初めてレバーを握ると、覚えるまでに時間がかかりますし、その間の練習そのものが負担になります。
保険には入れるのか
歩行者扱いということは、自賠責保険(強制保険)の対象外ということでもあります。バイクのような加入義務がない代わりに、何も手を打たなければ無保険のまま公道を走ることになります。
備え方はおおむね3通りです。
| 種類 | 何を補償するか | 確認する先 |
|---|---|---|
| メーカーの専用保険 | 新車購入時に、1年分の傷害・賠償保険が付帯していることがあります(スズキなど) | 購入した販売店 |
| 個人賠償責任保険(特約) | 他人にケガをさせた、物を壊したときの賠償。ご家族の自動車保険・火災保険の特約でカバーできるケースが多い | 加入中の保険会社 |
| 傷害保険 | 乗っているご本人が転倒などでケガをしたときの入院・通院費用 | 加入中の保険会社 |
現実的にいちばん頼りになるのは、真ん中の個人賠償責任特約です。すでに入っている自動車保険や火災保険、クレジットカードに付いていることが多く、その場合は保険料を追加せずにセニアカーの事故もカバーできます。同居のご家族まで補償の対象になるのが一般的です。
ただし、契約の内容によって扱いは変わります。新しく入るより先に、まずは「セニアカーに乗るのですが、この特約は対象になりますか」と保険会社に一本電話を入れてみてください。すでに備えができていた、というご家庭も少なくありません。
事故を起こしてしまったときの動き方
歩行者扱いとはいえ、やることは自動車事故とほとんど変わりません。いちばんよくないのは、その場で「大丈夫ですから」と済ませてしまうことです。あとから痛みが出ても、記録がなければ保険が使えません。
- ケガの確認と、安全の確保ご自身か相手にケガがあれば、まず119番。動かせるようならセニアカーを歩道や路肩へ移し、後続車による二次被害を防ぎます。
- 警察へ連絡する(110番)その場での示談は避けてください。保険を使うときに交通事故証明書が必要になり、これは警察に届け出ていないと発行されません。
- 相手の情報を控える相手がいる場合は氏名・連絡先・加入している保険会社を確認します。可能であれば、現場の様子をスマートフォンで撮っておくと後々役に立ちます。
- 保険会社と販売店へ連絡する加入している保険の窓口へ。車体が壊れているときは、そのまま乗らずに購入した販売店へ点検を依頼してください。
とっさのときはご本人も動転します。ご家族の名前と電話番号を書いたカードを、座席の下やカゴのポケットに入れておくと安心です。
事故を防ぐためにできること
先ほど挙げた事故のパターンを裏返すと、気をつけるべき場所はかなりはっきりします。「運転がうまいかどうか」より、どこを走るかを決めておくことのほうが効きます。
| 危ないのはこんな場面 | 気をつけること |
|---|---|
| 踏切 | 線路に対して直角に進入します。斜めに入るとレールの溝に前輪を取られます。万一閉じ込められたら、まず非常ボタン。そのうえで後退し、遮断棒を押しのけて脱出します |
| 側溝・用水路 | フタのない溝に沿った道は通らない。遠回りでも、幅があって平坦な道を選びます |
| 坂道 | 急な坂は上りも下りも避けます。下るときは速度を最低まで落としてから |
| 段差 | 斜めから乗り上げると横転します。まっすぐ入れないところは迂回する |
| 人通りの多い場所 | 商店街や駅前では速度設定を落とし、歩く人と同じくらいの速さに |
走る場所と速度のルール
原則は歩道です。歩道がない道路では、右側の路側帯を通ります。速度は法律上、時速6kmを超えられない構造と決められていて、これは早歩き程度。速く走ろうとすること自体ができない乗り物だと考えてください。
点検と、最初の練習
意外と見落とされるのが日常の点検です。タイヤの空気が抜けているとハンドルを取られますし、ブレーキの効きは季節によっても変わります。月に一度でいいので、空気圧とブレーキ、それにバッテリーの充電具合を見てあげてください。
そして納車直後。いきなり公道へ出るのではなく、交通量の少ない広い場所で、ご家族や販売店のスタッフと一緒に何度か練習してから走り始めるのが安全です。よく使うルートを一度ご家族と歩いてみると、「ここは溝が空いている」「この坂はきつい」といった危ない箇所がはっきり見えてきます。
何歳まで乗れるのか
結論から言うと、法律で決められた年齢の上限はありません。免許も不要ですから、90歳でも100歳でも乗ること自体は可能です。
判断の基準になるのは、年齢そのものではなく体と判断力のほうです。次の4つを目安にしてみてください。
| 確認したいこと | 具体的には |
|---|---|
| 手や腕の力 | レバーを最後までスムーズに操作できるか。途中で握力が抜けてしまわないか |
| 首や体の柔軟性 | 振り返って、左右と後方を目で確認できるか |
| 認知と判断 | 信号や周囲の動きを正しく判断できるか。いつもの道で迷うことが増えていないか |
| 体調 | めまいや強い眠気で、意識が途切れることはないか |
ひとつでも引っかかるようなら、ご本人だけで決めずに、ご家族やケアマネジャーを交えて話してみてください。「もう乗らないで」と切り出すのは気が重いものですが、実際にはご本人のほうが先に「最近ちょっと怖い」と感じていることも多いのです。日々の様子を見ているご家族が、そのきっかけをつくってあげてください。
乗らなくなったセニアカーは、置いたままにしない
最後に、買取店としてひとつだけ。乗るのをやめたセニアカーがご自宅に残っているなら、そのまま置いておかないほうがいいです。バッテリーは使わなくても少しずつ劣化しますし、屋外に置けば錆びます。時間が経つほど価値は下がっていきます。
当店では、動かなくなった車両やバッテリーが上がったままの車両でも査定しています。処分に費用をかける前に、まずは一度ご相談ください。出張費・査定費はいただきません。
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